モグラになりたい|4月6日

夫が生きているときは、春の訪れを心待ちにしていた。
なぜなら風邪を引く心配がなくなるから。
抗がん剤の副作用で起こる突然の発熱に加えて
風邪なんか引けば、
私達のスタンスから大幅に掛け離れてしまう生活が待っている。
出来る限り副作用を受けないように考えているつもりでも、
長く生きて欲しい、という気持ちは私の中からは排除できなかったから、
大阪府立成人病センターでの闘病初期の頃は
標準治療と、それほど違う治療の選択をしていたとは言い難い。
だから、副作用に関しても、
私が私を慰められるほど、軽いものではなかったかもしれない。
確かに最初の二年間ほどは元気だった。
世間一般に恐れられている病気にかかっているとは信じられない程、
普通の生活を送っていた。
でも、病気になってから風邪だけには
神経質過ぎるほど、徹底して防御策をとっていた。
まだ冬の名残を感じつつも、暖かい風が吹き始めると
夫は「や~っと冬終わったぁ~!」と言って開放感に浸っていた。
そんな春が、またやって来た。
開放感もないし、楽しくもない。
傍にいつも居るはずの人がどこにも居ない。
元気を装っているけれど、元気じゃない。
何をしても満たされない。
今日も長い道のりを散歩したけど、
生暖かい風邪は気持ち悪い。
満開になる桜も見たくない。
穴でも掘ってもぐっていたい。

モグラか。

モグラにでもなりたい。

人間って一人で居てもホントに疲れる。
家に居れば変な電話もかかってくる。
何度聞いても名前も名乗らず、
亡くなった母のことを根掘り葉掘り聞く。
自分の情報を一切伝えず知りたいことを知ろうとする。

バカかストーカーか。

夫が居れば何があっても笑い話で済んだ。
気分の悪いことがあってもジョークに変えてくれた。
そして私は、いつも笑い転げた。
転げまくって笑い過ぎて力尽きて放心状態になる。
それでイヤな思いはすっ飛んで行く。
でも、今は何かイヤな事があると10倍疲れる。
二度と帰って来ない時間に嫉妬して 毎日じだんだを踏んでいる。